フランスでの車検後、全ての競技車両がダカールまで海上輸送されていたので、それぞれのマシーンを港まで引き取りにきた。「あんたはここで待ってて」と言って船の中に消えた友川を潮風にさらされながら2時間ほど待っていた。
決して爽やかな潮風ではない。生臭いぬったりとした嫌な潮風だ。
どこにいても落ち着かない。どこで待っているのが正解なのかさえ分からなかった。
ようやく船倉からエンジン音が響き上がってきた。
篠塚氏や増岡氏のマシーンに手を振り、50台以上も見送ったくらいにようやく友川の操るマシーンが姿を現す。心に光が差し込む感じってこういうことだ。あれだけどんよりしていたのに一気にワクワクした気持ちに変わった。
去年リタイヤした後、マシーンの引き上げに時間がかかったため、砂漠に潜んでいた盗賊にエンジンとミッション以外のほとんどのパーツを盗まれた。(お気に入りだった天才ナビゲーター故ムシュマラ氏の名前が刺しゅうされていたナビシートも、非常食用に残しておいたドライソーセージも、だ!)
エンジンがあればなんとかなるし、友川にとっても思い入れの大きいマシーンということもあり、三菱インターナショナルチームのメカニックを担うフランス・ソノート社にお願いし、ボロボロだったマシーンを再製してもらった。ソノート社のノウハウが詰め込んであるマシーンと言っていい。新車みたいにピカピカだ!
スタッフから明日のランチパックなどをひったくるように受け取り、ナビ席に飛び乗った。
「カラーリング、かっこいいね!」
「・・・・・・。」
「うわっ、新しいラリコンだ!うれしーっ!」
「・・・・・・。」
・・・・あれ?なんだか空気が重い。
いつもマシーンを「うちの子」とか「この子」と表現している友川のほうが新車同様に生まれ変わったマシーンに興奮していると思っていたのだが・・・・。
「どうかした?」
「・・・・・・。話しかけないでっ!!メタルクラッチ、初めてなんだよ!」
友川は、クラッチのつなぎのタイミングに全神経を集中させている。ピリピリしている。
仕方ないので、私は私で、友川の神経を逆なでしないよう、ラリコンやGPSのセットアップをすることにした。
・・・・無言って、重い。
15キロほど走り、チームから指定されていたガソリンスタンドを見つけた。簡単な車両チェックを行い、ガソリンを満タンに入れ、ホテルの駐車場へと急ぐ。
オーガナイザーの指示通り、夕方の5時までにパークフェルメとなる車両保管場所にマシーンを持っていかないとならなかったので、残り少ない時間でのシート合わせ、荷物の詰め込み、スポンサーのステッカー貼りなどの細かい作業を全て終わらせなくてはならない。私たちの担当メカニックになったマークにも手伝ってもらいながら、どうにかやるべきことは終わらせた。友川の張りつめた緊張感もいくらかはほぐれたようだった。
6時半から、競技者出席のブリーフィングが始まった。
オーガナイザー代表のオリオール氏が壇上に上がると、ものすごい歓声が湧き起こった。その存在感は圧倒的で、本物のカリスマのオーラを感じた。彼に憧れてバイクで参戦するライダーが多いのもうなずける。
この人の旗のもと、明日からの16日間、私たち競技者はアフリカの大地で様々なドラマを演じることになる・・・・。
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